お互いに

本は繰り返し読む。
そんな気にさせる作品がいくつかある。
その時その時、何か引っかかりを感じて、何度も行きつ戻りつすれば、思いがけず、刺さる言葉を掘り起こせる。
時を経て読み返せば、自分の成長がわかる。

ある日のこと。好きだった朝ドラが再放送されていることを知る。
3年前はサラッと流れていったやり取りが、頭の中で繰り返される。

年配のレストランの女主人牧野鈴子さんが、娘ほど歳の離れた初対面の永井愛子さんに問う。

「永井さん、東京の人?」
「はい。」
「ずっと?」
「生まれも育ちも。」
「じゃぁ。あのぉ…。」
「はい。戦争中もずっと東京におりました。」
「大変でしたねえ…。お互いに。」
「はい。」
「よく頑張って…。生きたね。」
「はい。ありがとうございました。」
(『ひよっこ』脚本・岡田惠和)

あぁ、気づいていなかった。愛子さんは「ありがとうございました」と言っていたのだ。

子供の頃、実は大人たちが懐かしげに戦争体験を語り合うが嫌だった。楽しげに話されると、命が、個人の価値が軽んじられたようで。しかも、なぜだか決まって最後に、「これだから戦後生まれは」とお叱りを受けた。あれは一体なんだったんだろう。
子供は黙っているしかなかった。

愛子さんは、子供の頃、誰にも伝えられなかった、心の内に押し込めた恐怖、苦労、我慢を、別のところで生きてきた歳の離れた鈴子さんに、大変だった、頑張った、よく生きたという言葉を、「お互いに」と言葉で抱きしめた。

だからこその、「ありがとうございました」だったのだ。

この日の夕方、緊急事態宣言が出された。

いつの日か、新型コロナウイルス感染症との戦いに人類が勝利したら、世界中で称え合うのだろう。

大変でしたね、お互いに!

よく頑張って、生きましたね!